息は吐かないと吸えない ー 何かをやめるということ

私は移り気かつ衝動的な性格なので、これまでにあれこれとやってきました。自分の時間は有限なので、あれこれやるということは、あれこれやめるということでもあります。でも、やめる、ということはとても難しい。始めるのは割と簡単ですが、やめるのは難しいと実感しています。そのため私の周辺にはいろんなことが、とっちらかっています。

ビジネスにおいても「サンクコストを無視せよ」とよく言われます。何かの意思決定をするにあたって、これまでどれだけの労力を割いてきたか、投資をしてきたかは無視して、その時々に最善と思える手段を採用せよ、ということ。例えばプロジェクトにおいて、これまでAというアプローチをとってきて人もお金も時間もかけてきたが、現時点で実はBが良いとわかっていたらAをやめてBをとる。これがまさに言うが易し行うは難しです。これまでかけてきた労力がちらついて、なかなかやめられないのです。

その、やめる、ということで最近、印象的な経験をしました。私は26年勤務した会社を数ヶ月前に退職しました。好きで働いている会社でも、四半世紀以上勤めると良くない意味で慣れが出てきました。退職したのは何かきっかけがあったわけではなく「そろそろ潮時かな」と感じたのが理由です。ただ気に掛かっていたのが「今後の人生でこれをやりたいから決断した!」という積極的な理由がないこと。「やめよう」という気持ちが先立ったものの、胸を張ってポジティブに宣言できる理由がないのです。それはあんまり好ましくないな・・・と、思っていました。とくに私は、体が動くうちは働き続けようと思っていますので、そんな風にやめるのはちょっとまずい気がしていました。

だけど、やめると決めてから、これまでぼんやり考えてたアイデアが具体的になったり、「一緒にやりませんか」と声をかけてくれる人が現れたり、次のステップがクリアになってきました。ちょっと不思議な感覚でした。その時、以前に行った水泳教室のことを思い出しました。クロールの息継ぎが上手にできない私。「どうやったら上手に息を吸えますか?」と聞いたところ、先生の言葉がこれでした。

「息は吐かないと吸えませんよ」

息を上手に吸うコツは、肺の中の空気を全部吐き出すことでした。息を全部、吐いてしまいさえすれば、意識などしなくても勝手に吸うことができます。その経験を思い出したのです。会社をやめるという大きな息を吐いたことで、始めて次の思考や行動が生まれてきた感じがします。

決していまやっていることをやめよう、と言っているわけではないです。自分にとってそんなに大きなことではなくて毎日の生活の中でも、もやもやしながら「やめても、次のビジョンがないから」という理由でしかたなしに続けていることはあると思います。そんなとき、とりあえずその活動をやめてしまって肺の中を空にする、という選択肢もありなんだと思います。そうすると新鮮な空気が入ってきて、新しいビジョンが生まれてくるかもしれません。

2025年9月29日
アストロライフ合同会社 代表
丹羽雅彦

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