ビジネス

ロジカルシンキングに苦しむ

正直な告白をすると私はロジカルシンキングがいまひとつわからず苦しんできました。ビジネスで使うアメリカ型のロジカルシンキングです。コンサルタントとしての実務や、大学やビジネススクールの講師の経験はそれなりにあるので、MECEにしたりイシューツリーをつくったり、ロジカルシンキングっぽく装うことはできます。しかしその実、いまいちしっくりこなかったのです。あらためて理由を考えてみました。

サイエンスとの違い

学生時代は理系を自認してきましたし、教育もいわゆる理系の教育を中心にうけています。理系の学生にとってロジカルとの出会いは数学です。高校の頃に、ひとつの数学問題に対して、まったく異なるアプローチで解いても同じ解答に辿り着くのがとても不思議でした。大学で記号論理学に出会ったことで、少ない公理からスタートし論理記号を用いて厳密な証明ができることに驚き、夢中になった記憶があります。「これが論理というものか」と感動しました。

一方で30代にしてビジネスの世界で出会ったロジカルシンキングは、前提は曖昧だし、論理展開も主観的要素が強い。解も厳密な一つではなくて「なんとなく確からしい解」になる。

 「これのどこがロジカルやねん」

とやさぐれていました。サイエンスでなく哲学を学んだ人は同じ思いをしているかもしれません。

結論に最初が怖い

二つ目は結論を最初に言う恐怖です。ロジカルシンキングでは結論を最初に提示することが求められます。しかし

 「最初に結論を言って、否定されたらどうするの? 話が終わっちゃうじゃん」

という恐怖がつきまといます。そのため結論を出す前に、たくさんの言い訳を重ねるわけです。そして言い訳を言っているうちに聞き手に飽きられたり、途中で介入されて違う話になり、ぐだぐだになる、という経験を何度もしました。しかしやっぱり結論を最初に出すのは難しいと感じていました。

脇道にそれたい

これは自分のプレゼンの癖みたいな話です。ロジカルシンキングではプラミッド構造をとり最初に解を提示したあと、補強するための事例や根拠などを見せていきます。このときに簡潔さと納得感を出すために、解に一直線の根拠を提示することになります。これがどうにも苦しい。私はついつい興味本位の話や脇道に逸れる小話をしたくなるのです。また「細部に神が宿る」とか言いながら、枝葉末節に時間を使ったりします。好きなんです。話の効率性を求められるロジカルシンキングでは致命的な癖です。

そんなこんなでロジカルシンキングに苦手意識がありました。でも経験を重ねるうちにわかってきたこともあります。

ビジネスにおけるロジック

最初にあげたサイエンスの話は目的の違いによるものです。サイエンスの場合は仮説を証明をするためにロジックを使います。一方でビジネスのロジカルシンキングは「相手に納得してもらうため」のコミュニケーションの手段です。解を導くための思考の道具としてロジカルシンキングが使われることもありますが、その多くは相手に理解してもらい、行動を促すためです。そのため前提も定義も多少あいまいでも、聞き手とだいたい合意が取れていればいいし、導く解もいくつかある中から、これを選んだ理由が納得感がそれなりあれば良く「厳密でないが確からしい解」くらいで良いのです。その結論をもとに人々が動き出すことができれば良い。

2つ目の結論が最初というのは、経験を積むうちに自分もそのような話の仕方をするようになりました。話を聞いてもらう相手はせっかちな人が多かったというのも理由の一つです。でもいきなり結論を言って「違う!」とならないように、絶対否定されないような、例えばビジョンから論を展開していくなど、導入の工夫をするようになりました。

3つ目の「脇道にそれたい問題」は聞き手を意識するようになりました。講演会のように、話を聞く時間を確保できていて、かつ私の話を聞く姿勢がある時は、エンタメ性をいれつつ脇道にそれながらも元に戻る、ということをしています。だけど相手に時間がなくて説得しなければいけない場合は、やっぱり解に一直線に説明しようと努力しています。

とはいえ「丹羽さん、説明時間が15分しか時間がないのに宇宙の話をしてた」と笑われること多々ありです。ロジカルシンキングとヨタ話の合間でもがいています。

2025年11月3日
アストロライフ合同会社 代表
丹羽雅彦

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