多様性の時代。人の話を聞くことがこれまで以上に重要になっています。そこでのポイントは「共感」。相手の話に自分の心が動かされることで、初めて分かり合えることもあります。私は企業向けのコンサルティングを生業としており、これまで聞く技術を磨いてきました。しかし「共感」して聞くことが上手にできていない実感があります。とくに「理屈ではわかるけど、まったくこの人の話には共感できない」という経験がよくあるのです。でも、それでは大事なことを見過ごしてしまうかもしれない。それは避けたいです。
私は働きやすい職場を作るための企業のリーダーシップ向けの研修事業をすすめています。共同で事業をすすめている東大の熊谷晋一郎教授から、「共感」のためのヒントを伺いました。リーダーシップ研修では当事者研究のアプローチを導入し、人それぞれが自らを理解し、多様性を受容することで働きやすい空間を作ることをめざしています。当事者研究では自分語りが重要で、聞く側は「共感」をもって聞くことが重要視されています。
共通骨格で共感力を持つ
ポイントは「共通骨格」です。先生は事例をひとつ紹介くださいました。当事者研究では妄想を持ち続けている方も研究に参加されています。妄想とは人と異なる信念体系を持ち、証拠などを示されても信念を変えることができない状態であり、誤解や思い込みとは異なって対処が難しいと言われています。この事例では3人の方が参加されました。Aさんは長年「UFOに追われている」という妄想を、Bさんは「FBIに追われている」という妄想を、Cさんは「殺人集団に追われている」という妄想を持っていました。この方々に自分語りの会話をしてもらうと、興味深いことに自分の妄想は真実と信じて疑わないものの、他者の妄想は妄想と考えるそうです。Aさんは自分のUFOに追われていることはゆるぎない事実と考えるが、Bさん、CさんのFBI、殺人集団は妄想と考える。Bさん、Cさんも同じです。この状態で長く話し合いを続けると、置かれている状態は違うものの、全員が「強い力に追われている」という共通の事項に気づいたそうです。これが共通骨格です。そして同じ共通骨格をもつ3人のうち、自分だけが真実と考えていることを他の2人が妄想と考えることから、その真実がもしかしたら妄想でないか、と考え始めるのだそうです。これまで、どのような取り組みをしても妄想が消えることができませんでしたが、「共通骨格」を持つことで、妄想でないかと考え始めたそうです。
多様性の中で
私たちは映画やオリンピックなどで、自分とはまったく境遇の異なる主人公や選手に対して共感を持ち、感動することがあります。これは「大きな困難を抱えていた」「過去に消せない失敗体験がある」などの共通の骨格をそこに見るから感動するのだと思います。異なる人生を歩んできた人にも、共通骨格があることで共感するようなのです。
多様な人が集まるところでは、生きてきた背景も異なり、同じ価値観を持つことは難しく感じます。これは仲の良い友人や、一緒に暮らす家族でも、同じで自分とまったく同じ価値体系を持つことはできない。ちょっとずつ異なる価値観となります。ましてやさまざまな人が集まる職場では同じ価値観を共有することは困難だと思います。利益を上げることが企業の目的の一つですが、その中での個人の活動では、新しいことにチャレンジしたい人、出世を目指す人、他にやりたいことがあり生活のために働く人・・・さまざまです。しかし同じ価値観は持てなくても、何か共有できる共通の骨格は発見できるかもしれない。グループ内で目的意識や危機感が醸成されていればより簡単ですが、そうなっていなくても同じ感覚、同じ枠組みでの思考などを、発言から探ることはできそうです。
目の前に「この人はいったい何を言っているのだろう?」と、自分ではまったく理解のできないことを話す人がいることがあります。でもその中に共通の骨格をみつけることができれば、少しでも共感して聞くことができ、それが自分自身の理解へもつながる気がしています。私にはこれまで持っていなかった意識であり、ぜひ試してみようと思います。

2026年2月24日
アストロライフ合同会社 代表
丹羽雅彦