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製造業の復権のキーは物理現象

私が子供のころは、身の回りに日本製品に溢れていました。私は子供のころから家電が大好きだったので、週末がきては電気屋さんで電化製品を見て回っていました。でも気がつくと、パソコン、ディスプレイ、スマホといったIT機器だけではなく、掃除機、アイロンといった家電でも海外メーカーが多くなり、日本メーカーの製品がとても少なくなったのを感じます。また私の趣味である望遠鏡の世界でも、中国メーカーの勢いはすさまじく、魅力的な新製品のラッシュです。

私はこれまでの仕事のキャリアの多くを日本メーカーとともに歩みましたので、この状況はかなり寂しい。なんとか日本の製造業が復権して欲しいと思って仕事をしています。そんな中、多くの人と会話することで私の中で光明が見えてきた気がしています。私の考える復権のキー・・・。

それは「物理現象」です。

中国メーカーをはじめとして新興のメーカーはデジタル技術を武器に力を伸ばしています。デジタル上で、設計、試作をすませ、高精度なNC加工機で一気に削り出して作る、そんなイメージです。設計工程も製造工程もデジタル化・自動化が進んでいます。いわゆるデジタルツインです。

しかしどんなにものづくりのデジタル化が進んだとしても、最終製品は実態のあるモノです。デジタルツインとは、現実世界の写像をデジタル空間に作ることですが、現実世界とデジタル空間の間に「物理現象という大きな壁」がそびえています。どんな素材を使えば耐久性が上がるのか。穴の位置をどこにするか。応力は?摩擦力は?どうすれば精度が高い加工ができるのか? などなどたくさんの物理現象に関するノウハウが必要とされます。日本のエンジニアは長い歴史の中で、そんな物理現象に向き合うスキルをつけてきました。これは一朝一夕にデジタル化できるものではないはずです。その強みを活かすことで日本の製造業の復権を果たせると考えるようになりました。

お客様のシニアなエンジニアの方と話をすると、目をキラキラさせて物理現象にどう対処するか一日中でもお話をしてくださいます。またそのために製品アーキテクチャがどうあるべきかも熱く語られます。最近、デザインから設計、製造を手がけるスタートアップを経営している知人が、日本のシニアなエンジニアが自分の会社に転職され大活躍されている話を聞かせてくれました。スタートアップはデザイン力、IT技術には優れていますが、ハードのノウハウが足りないのが悩みでそこを補ってくれるとのこと。日本にはスキルをもつハードウェアエンジニアがたくさんいるのです。

こういった物理現象もAIでモデル化される日も近いでしょう。そのときに焦らなくて良いように、いまからそんな知見をデータ化しておく重要性も一方で感じます。

これからの日本の生きる道のひとつを垣間見た気がしました。

2025年7月28日
アストロライフ合同会社 代表
丹羽雅彦

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