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供給者誘発需要という資本主義の業

「供給者誘発需要」という言葉があります。とくに専門性の高いプロフェッショナルサービスでおきる現象で、サービス提供者側から必要以上のサービスを提案するもの。たとえば医師が緊急性の低い治療を患者に提案したり、経営コンサルタントが顧客企業に過度な改革を迫ったりする例などが挙げられます。とくにサービスの提供側と受ける側で知識や経験の格差があるときに発生します。私もコンサルタントですので、その提案が供給者誘発需要になっていないかをいつも気にしています。特に意識しているのは企業の持つ「自然治癒力」です。企業の持つ底力はあなどれないので、リストラなど外科手術的な大改革が必要と思われた時でも自然治癒の道がないか常に意識しています。これは医療でもきっと同じですね。

この供給者誘発需要。真の需要ではなく、偽りの需要を作ることを主に指します。しかしやっかいなのは供給者側は誠実に対応しているつもりでも、それが偽りの需要であることも多いにあります。悪意があるわけではないが、結果として余計なことになってしまうわけです。

一方で供給者が需要を作りだすこと自体は通常の経済活動で起きています。たとえばスマホ。私はスマホなしには生きていけない人間で四六時中さわっていますが、もともと欲しかったものではない。AppleやGoogleといった供給サイドが提案したものを「これは便利」と使っているわけです。そう考えると彼らは「真の需要」を作り出したといえます。

しかし、ちょっと待てよ。本当に必要だったのか? たとえば携帯やスマホがなかった時代は出張は牧歌的でした。新幹線に乗ってしまえばもう何もできない。昨夜に作った資料を客先に持っていくだけです。会社側で「やっぱりああしたい、こうしたい」と思いついてもいまさら何もできない。常時接続のいまは忙しくなりました。携帯が出始めた頃は、それをいち早くビジネスに取り入れることが競争優位につながりましたが、ビジネスパーソン全員が持ってしまうと忙しさだけが残ります。またスマホが生活をむしばんでいる事実も否定できません。そう考えると何が真の需要で、なにが偽りの需要かわからなくなります。

よくよく考えてみると、供給者が需要を生み出すのは「資本主義の特性」そのものなんだと思います。資本主義は常に成長が求められます。ビジネスをやっていて厳しいと感じることのひとつに、毎年一定割合で成長が求められることがあります。毎年、一定額の成長ならなんとかなります。しかし資本主義で求められるのは「成長率」。つまり割合なんです。成長率を積み重ねていくと指数関数で効いてきて、数年でとても大きな規模になります。複利効果と同じです。その効果はとてつもなく、10%成長を10年やると2.6倍になります。10%成長を10年続けるためには、2.6倍の規模のビジネスを産まないといけないわけです。ちなみに30年続けると17倍です。それだけの需要は買い手だけでは生み出せない。需要側のニーズだけでは足りないのです。そこで需要創造が必要になります。「こんなに暮らしが良くなりますよ」という需要創造もあります。またSNSやYouTubeで「これを持っていないと損をしますよ」と焦りを覚えたり、衝動を刺激するような広告が出てくるのも需要創造。「これをやらないと危険ですよ」と保険会社がホラーストーリーで不安をあおるのも需要創造。そうやって資本主義に必要な成長を維持していくわけです。

このように肥大化していく資本主義ですが上限が存在します。それは地球のキャパです。そろそろパンパンになっていそうなのは、誰しもが感じていることでしょう。デジタル経済になることで無限のキャパを手に入れたかと私は錯覚しましたが、莫大なデータセンターの電力消費量をみるとそんなことはない。やはり地球のキャパの上限に近づいているわけで、なんとかしなければいけない。

資本主義がこのまま突き進むのか。他に取るべき道がないのか。ここ数年はずっと考えています。まだ気が付いていないことがきっとあるはずです。

2025年8月11日
アストロライフ合同会社 代表
丹羽雅彦

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