見かけとは違う。生配信中の雪山遭難事故で気がついたこと

クリスマスの日、ある動画配信者がサンタの格好という軽装で冬山に入り、生配信中に遭難する事故がありました。幸いにも救助され大事に至らなかったこの事故、登山から遭難、救助までの一連の出来事がニコ動で生配信されていたことで話題になりました。私もアーカイブで動画をみました。この配信者の軽率な行動についてはともあれ、私が注目したのは視聴者からのコメントです。ニコ動は視聴者のコメントが画面に流れます。今回、遭難してパニックに陥っている配信者に対して、驚いたことに配信中ずっと自業自得だというような視聴者からの罵声が続いたのです。最悪の場合、亡くなるかもしれない状況なのにずっとひどいコメントが続きました。動画を見た時は「いくらなんでもあまりに冷たいんじゃないの?」と驚きました。しかし、よく考えてみると違った側面にも気がつきました。

動画を見た直後は視聴者にとっての「リアリティの無さ」に驚きました。もし実際に目の前でこれくらいの苦難にあっている人がいたら、それがどんな理由であれきっと、何か助けられることはないかとか、それができなくても応援のための声をかけるとかはずで、罵声を浴びせることはないはずです。しかし配信はリアルタイムであるにもかかわらず、パニック状態に陥っている映像の視聴者は、どこかエンターテイメントを見ているようにとらえているようでした。「同じ時間にどこかの山の中で起きているリアルだということに考えがいかないのか」と驚きました。

しかしもう少し考えをすすめてみると、揶揄するようなコメントを書いているのは少数派で、消防や警察に通報した方もいたはずです。また多くは心配しながら動画を見ていたのだと思います。SNSのコメントは少数派の意見が拡散することが多く、それが大多数を表していると勘違いしてしまうことはよくあります。今回の私もそうでした。少数の目立つコメントに引きずられて、それが大部分と読み誤りました。

さらに考えてみます。この配信者はこれまで迷惑系として活動していたようです。生配信で罵声を浴びるのは慣れており、それを承知で配信していたように思います。むしろ音楽ライブでのミュージシャンとオーディエンスの間のコール アンド レスポンスのように、配信者と視聴者の掛け合いにお約束があり、ある種の信頼関係があったかもしれません。生配信を見ているくらいですから、コアなファンであり罵声は「見てるよ」という無意識の応援なのでしょう。

そう考えると、遭難中に罵声を浴びせるのは視聴者にとっても配信者にとっても日常となります。配信者にとっても、遭難中に反応があるのはむしろ心強かったかもしれません。少なくとも、そこに繋がっているという日常が存在して、パニックになりながらも頑張ると言う気持ちを持ち続けられたように感じました。

これは全部、私の推測なので本当は何が起きていたのかはわかりません。SNSをはじめとしたネットの世界とリアル世界の境界では、思いもしないことがおきています。

「リアルは見かけとは違う」

いつも意識しておきたいです。

2025年12月29日
アストロライフ合同会社 代表
丹羽雅彦

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