あけましておめでとうございます。今年もアストロライフと当コラムをよろしくお願いします。
新年1回目のコラムはこれからの会社の形についてです。「これからどんな業界が生まれ、発展していくか?」とはよく考えるのですが、これは当たるも八卦当たらぬも八卦。なかなか想像がつくものではありません。一方で会社の形がどうなっていくかは、なんとなく想像がつきます。個人や小さな企業の力がますます強くなっていくと感じています。大企業の役割は社会インフラやプラットフォームに収斂していき、製品、サービスなどバリューチェーンの端で最終顧客に接するのは、個人や小さな企業になっていく。この現象はデジタルの世界では先に起きました。巨大プラットフォーマーと細やかなサービスを提供する個人や事業者に二極化が進んでいます。その動きが、デジタル産業を超えて広がっていくイメージです。
大企業が必要とされている理由のひとつに「規模の経済」があります。大きな投資を回収し、固定費を薄めるにはたくさん製品をつくらないといけない。私が「100億円問題」と名付けた事象があります。大企業における新規事業のコンサルティング案件で目標とする事業規模を確認すると、ほとんどの場合「100億円です」と即答されるのです。なぜ100億円か?雇用や投資回収の視点から、直感的に100億円くらい売らないとやる意味がない、と考えるのだと思います。しかし既存事業を成長させるのと違い、新規事業で0から100億円を生むのは並大抵ではありません。
この制約が少しずつ変わりつつあります。デジタルの世界ではクラウドサービスなどを提供するプラットフォーマーの登場により、以前には必要だったコンピューターなどの初期投資が不要となり、固定費がとても小さくなりました。その結果、最初から大きな事業を狙わなくても、小さな規模でも最初から利益を生み出す事業ができるのです。そのためデジタルの世界では巨大プラットフォーマーと小さなサービサーに二極化しつつあります。これが製造業など、非デジタルの業種でも起き始めています。
趣味の世界で躍進する小さな企業
非デジタルの領域で個人や小さい企業が強くなる現象は、趣味の世界ではすでに起きています。趣味の世界では個人の嗜好が細分化され、みんな自分仕様のものを持ちたがるため、小回りのできる小さな企業が有利です。私の好きな天体写真の世界でも、中国を中心に多くの望遠鏡メーカーが驚くスピードで新製品を出し続けています。
これを可能にするのが企業をまたがる製造ネットワークです。望遠鏡を作るには精密な機械加工機が必要で投資が必要です。しかし中国には、切削加工機などの最新の製造設備を代わりに持って受託生産してくれるメーカーがたくさんあります。望遠鏡メーカーは設計、マーケティング、販売に注力し、製造は高精度な製造を可能とするメーカーに任せるネットワーク型の製造業がたくさん生まれているのです。
スマホに代表されるように、個人でうまくいったものがビジネスに転化されていく時代ですので、趣味の世界で起きていることはビジネス全般に広がることが予想されます。もう、みんなありきたりの標準品では満足できないのです。企業間ネットワークを活かした個人や小さな企業の存在感が拡大していくと思います。
そこで重要になるのが企業間をつなぐネットワークです。
AIで可能となる企業ネットワーク
水平分業の企業間ネットワークによるメリットはこれまでもなんども語られてきました。しかし障壁も多く、適用できる領域は限定的でした。しかし、ここにきてAIが登場したことで、障害をひょいと乗り越えられそうになってきました。
(1) 企業間の異なる形式のデータをやりとり
企業連携においてはデータのやり取りが発生します。しかしデータの形式は企業ごとに異なり、システムの違いであったり過去の慣習などから、簡単にデータ形式は変更ができません。そのためデータの形式をあわせる翻訳が必要になりますが、それには多大なシステムコストがかかります。システム構築で大きなコストがかかることの代表がインターフェースなのです。しかし生成AIの代表である大規模言語モデル(LLM)により、自動翻訳は高精度となり異なる言語間のコミュニケーションが簡単になりました。企業間連携で問題となるインターフェースの違いを解消するためのプロトコルの変換は、言わばコンピューター向けの翻訳作業ですからLLMの得意な領域です。
(2) 機密性を確保しつつ全体を連動
もうひとつの企業連携を阻止するもの。それは事業上の機密流出です。企業をまたがってオペレーションを効率化するためにはデータをやり取りするだけでは足りません。例えばサプライチェーンの領域では、データ連動だけでは企業ごとに少しずつ安全マージンの在庫をもってしまい全体で大きな無駄がでてしまいます。いわゆるブルウィップ効果です。それを防ぐには企業間をまたがった全体を見渡して計画する必要があります。しかしそのためには企業の内部データも共有する必要があり、それが企業連携を阻害してきました。ここで救世主が現れます。AIによる計画立案です。ブラックボックス化したモデルを企業で構築し機密は保持しつつ、AIによって全体にまたがって複数のモデルを一気に解く。そんなアプローチが可能になってきました。サプライチェーンの他にも製造の領域でもAIによる機密を保持した全体計画は有効です。私が取締役をしているアイクリスタルでは、とくに企業秘密が厳格な半導体の製造プロセスにおいて、異なる企業間で機密をまもりつつ最適化を実現しました。
(3) 取引の柔軟性確保
3つ目が取引に関するものです。ビジネスでは刻々と状況が変わり、その都度、設計変更、生産計画変更、販売計画変更など計画変更を余儀なくされます。計画変更のためにはこれまでの労力が余分にかかり、お金がからみます。企業内に閉じていた場合はメール一本ですむことも、企業間の場合は契約条項に縛られて、簡単に変更できないことが多くあります。ブロックチェーンを活用したスマートコントラクトによって、契約条項自体に自動化したインテリジェンスを持ち込むことで解決が期待されましたが、なかなか導入が進んでいません。その原因のひとつに、新しい契約を結ぶときに複雑な契約内容を精査し、リスク評価をするのに時間とコストがかかることが挙げられます。ここでもAIが役に立ちます。私はAIをベースとしたスマートコントラクトによる新しい契約モデルが登場することを期待しています。AIが契約内容を分析し、双方によってメリットやリスクが共有できるような良い塩梅の条件を瞬時に立案してくれれば、スマートコントラクトは進むと考えています。
このように今後は個人や小さな企業の役割が拡大し、大企業の役割はインフラに収斂していくと私は思います。それでは既存の大企業はどうなるのでしょうか?大企業は雇用の受け皿としては、やはり存在してほしい。大企業が生き残るためにはトップダウンの一律なオペレーションを減らし、小分けにした事業からなる集合体になっていくように思います。働く人にとってもその方が楽しいですよね。

2026年1月5日
アストロライフ合同会社 代表
丹羽雅彦