ビジネス

曖昧さに耐える

以前の職場でのこと。「新入社員に最も身につけてほしいスキルはなんですか?」という問いに、元同僚が印象的な回答をしていました。

  曖昧さに耐える力

「なるほど!」とうなりました。働いていたり生活していると、どうしても白黒はっきり付けたくなることがあります。そちらの方がすっきりして気持ちが良い。しかし不確実性の高い世の中で、いつも白黒はっきりさせることが良い結果を生むわけではないのです。ときには曖昧な状況のままにしておき、その居心地の悪さに耐えること。その力は、ますます混沌とした世界で重要性が増しているように思います。

どんなときに曖昧な状況に耐える力が発揮されるか考えてみました。

曖昧な状況でことをすすめる

なにか物事を開始するには調査して計画を立てることは重要です。計画無しにすすめるとどんな取り組みも迷走しまう。しかし、いくら調べても調べても先を見通すことができず、わからないことだらけなこともあります。とくに初めてやる試みは明日のこともわからないことが多い。こんなとき、いつまでも調査と計画立案ばかり続けているプロジェクトと、いまわかっている内容だけで一歩進むプロジェクトでは大きな差が生まれるように思います。

センサーを敏感にして少しだけ試し、反応を確認してまた試す。そうしながら少しでも物事を前に前にすすめていく力が必要とされているのだと思います。とくに近年のテクノロジーの進化はとてつもないので、明日になると状況ががらりと裏返ることもあります。そんな流れを捉えるためにも、曖昧な状況下でも一歩も二歩も物事を進める力が必要に思うのです。

最近のインターネットのサービスは出た当初と全く異なる形になっていることが少なくありません。これも「考えているよりやった方が早い」といち早く市場に出し、改善を加えていった結果なんでしょう。私はこれを「永遠のベータ」と呼んでいます。

戦略的先送り

一方で意図的に先送りすることも有効な場合があります。いわば戦略的な様子見です。もう20年近く前になりますが、家族が膝に原因不明の痛みをかかえたことがありました。悪い病気の心配もあるので病院で検査をしましたがMRIを使っても理由がわかりません。そこにいた医師が何人かで話し合い、外科的な処置も含む再検査を検討していました。その議論を聞いていて、私もだんだん不安になってきました。そこに現れた高齢な医師が一言。

「放っておいて、様子を見ましょう」

その医師が言うには、検査を続けて診断を出して何らかの病名を決めて白黒はっきりさせれば、家族は安心する。医師も責められることはない。しかし症状は複雑な要因が絡んでいて調べてもわからないことが多い。だから放っておいて様子を見るのが一番良いように思う。いま体を傷つける検査をするのは、医師にも家族にも「やることはやった」という安心感のためでしかない。そんなような話をされました。私はその医師の状況を見る判断力に感心するとともに、周りから放置したと非難されるかもしれない「様子見」という判断ができる胆力に感銘をうけました。曖昧な状況で「様子を見るため先送りする」という行為は、周りから「早く決めてください」というプレッシャーがかかります。しかしそれでも様子を見た方が良いこともある。そんなプレッシャーを乗り越える力は持ちたいものです。

ちなみに膝の痛みは数ヶ月で原因がわからないまま治り、20年近くたったいまも再発していません。

グレーゾーンを活かす

3つ目のポイントは曖昧な状況を積極的に活かす視点です。曖昧な状況は、解釈が多義的にできる状況ともいえ、結果としての取りうる選択肢が多くある状況です。そうすると白黒はっきりさせるより、曖昧な状況の方が新たな行動を起こすのに有利なことが多くあります。これはとくにルール作りや契約交渉などで考慮すべき点に思います。細かく定義したルールや契約でなくあえて曖昧な要素を残し、むしろその労力を相手との信頼感を醸成することに使うことで、柔軟性を担保したり、実態にあわせた運用を可能にすることができます。

ガチガチの状況はすっきりした感じにはなりますが、一方で変化に対応できずもろいもに思います。曖昧な状況に居心地の悪さを感じるのではなく、むしろ柔軟でしなやかさを生む状況と捉えたいと、同僚の「曖昧さに耐える力」と聞いたときに感じました。

2026年3月9日
アストロライフ合同会社 代表
丹羽雅彦

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