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高まるフィールドワークの重要性

コンサルティングの仕事を長年続けるなかで、フィールドワークを数多くしてきました。フィールドワークとは現地調査のことで、机上で議論した課題が本当にそうなっているのか、気が付かなかった課題が存在しないかなどを調査するもので、どちらかというと現地「観察」の方が語感として正しい気がします。私のお客様は主に製造業ですので、フィールドワークは工場もしくは倉庫がほとんどです。たくさんの工場に足を運ぶとと、その工場がなにを大切にしているのか、だんだんわかるようになります。例えば品質を重視している工場はフロアがとても綺麗です。人材を活かすことが得意な工場はあちこちに創意工夫が見られます。IoT(Internet of Things)という言葉が流行り出すよりずっと前に、手作りのシステムでデータ取得し工程分析している姿を見た時は、「がっちり作り込んだシステムより効果が高いな」と感動しました。こういったことは事前の調査ではなかなか分からず、現地に行って始めてわかります。

このフィールドワーク。デジタル化の進展に伴い、重要性がますます高まっている気がします。

一次情報が欲しい

フィールドワークをする主な目的は一次情報を入手することです。一次情報とは情報の発信元から直接得た生情報。高評価の記事でも論文でも、それらは誰かが一次情報を得てまとめた二次以上の情報です。AIに至っては学習したものがさらに再学習されているので数十次情報くらいかもしれません。二次以上の情報は「視点として参考になるけどあてにならない」というのが私も含む多くの人の感想だと思います。情報が二次になった段階で、劣化が進むのです。誰かが自分の論の根拠を強めるために自分に都合の良い情報を選択したり、強調して盛ったり(ドキっ! 自覚あります)している可能性があります。また情報をまとめる段階で、その人の主観などが混じってくる問題もあります。情報にバイアスがかかっているのです。結果として、事実からどんどん離れていくわけです。特にSNSの情報は、だれかの情報を見てまた継ぎ足してを繰り返しているので、ほとんど事実ではなくなっているはず。情報が簡単に手に入る時代だからこそ、現場の生の情報(一次情報)の価値が増しているのだと思います。

フィールドワークで何をみるのか?

数値情報であればセンサーや画像を使ってリモートからも把握できます。フィールドワークでは、データには表れないような現場でしか確認できない情報を集めます。売り上げが上がっているお店でも、お客様が不満げな表情をしている場合があります。逆に事前の情報からは「なぜこのお店が繁盛しているのかわからない」場合でも、店員さんの対応や調度品などお店の居心地がとても良いことがわかったりもします。

またシンプルな机上に比べて、現実はとても複雑です。理論ではうまくいくと考えていた施策も、現場に行ってみると様々な理由で実施が困難なことがわかったりします。導線が確保できない、まわりの理解が簡単に得られそうにない、別の理由でそうなっている、など。見た瞬間に「ダメじゃん」とわかるものです。その一方で、思っても見なかった解決案が見つかることもあります。現場でこういった光明がさすのは嬉しいものです。

また論文や教科書に書かれていることは平均値を取った内容にならざるを得ませんが、実際は現場ごとに事情は異なります。交通や立地条件、建物の構造、その土地の文化。一つとして同じ現場はない、と実感します。そのため現場に行ってじっと観察しないとわからないことだらけ。とくにAIの仕事をするようになって、工場見学がとても増えました。AIの使い所は工場をみないとわからないことが多いのです。

TikTokフィールドワーク

そんなビジネスでのフィールドワークはたくさんやってきた私ですが、アカデミックな世界のガチなフィールドワークへの憧れは隠せません。私の娘は地球惑星科学の博士課程にいて、よく火山石の採取に出かけています。父親が行ったこともない外国の僻地に赴いて、現地の方とコミュニケーションしながらフィールドワークをしているようです。娘の話を聞いていると、地学系の先生は皆んなインディ・ジョーンズみたいな人ばかりです。研究室で仮説を立てるとすぐに世界中に飛んで、現地調査をしてくる人たち。その行動様式は我々とは常識感がかなり違うのが眩しい。

アカデミックなフィールドワークに関しては面白い本を見つけました。「中国TikTok民俗学(大谷亨 著)」という本です。中国民俗学者である著者の大谷氏は、中国の各地にある民間信仰をこの本の中で紹介されています。その調査手法が面白い。SNSによる情報取得の問題を上に書きましたが、大谷氏はなんと中国版のTikTokであるDouyinをフル活用して中国各地の信仰に関して調査をしています。逆立ちした男の像など、TikTokでヘンテコなだけど魅力を感じるアイテムを見つけると、さらにTikTokで検索をかけていきます。中国のとある一部の地域でのみで崇拝されている宗教など、論文などには載っていない情報を得るのです。そうして「ここの土地にいけば情報があるはず」と目処がついたら現地に赴き、現地の方とコミュニケーションを繰り返しながら、調査をすすめていくのです。その破天荒ぶりがめちゃくちゃ面白く、とってもおすすめです。

今週はフィールドワークについて書いてみました。どうして急にフィールドワークかというと、先週から開始した東大の1-2年生向けの授業で、フィールドワークを取り入れることにしたからです。学生たちと教室を離れて街に繰り出し、新たな発見をしたいと思います。

2026年4月20日
アストロライフ合同会社 代表
丹羽雅彦

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