「自分のキャリアをどう作ればよいですか?」という質問を若い方から受けることがたびたびあります。私のことはなんだか楽しそうにやっているように映るようで(実は必死こいてやっていますが)そんなことから質問をいただいています。私も旅の途中なので答えを持っているわけではないのですが、うっすら感じているはあります。
キャリア形成の本や記事によく掲載されている「ありたい将来を描いて、逆算して今やるべきことをする」という方法は私には合いませんでした。そもそもありたい将来像がぼんやりしているので、逆算しようにもできません。私でなくても「やりたいことが明確でない」「やりたくないことはわかるんだけれど」という状況で「今、何をして何をしないべきかわからない」という方も多いように思います。むしろそれが何であるか、一生懸命に考え続けている状況ではないでしょうか。
一方で、私はこれまでありがたいことに「これは天職かも」とか「これが本当にやりたいことだ」と思える仕事に何度か巡り会うことができました。何度か会っている時点で天職ではない気もしますが・・・(笑)。一番長く働いたコンサルティング会社での仕事では、色々なプロジェクトに参画する機会がありました。「こんなことをしたいな」という気持ちは持ちながらも、何かを目掛けて一直線に仕事を選んだというより、あんまり取捨選択せず、与えられた仕事やちょっと面白そうと感じた仕事をその都度、必死になってやってきた印象です。それがいつの間にか一定の方向に収斂していき、天職と思える仕事に会うことができました。つまりやりたいことは大きな目標として感じたり、何であるかいまは悩んだり考え続けつつも、毎日は全力で今の仕事を頑張る、という感じです。そうしていくうちに「これだ!」と感じる仕事に出くわしてきました。
そのことは、月に似ているなと感じます。
どうして月は同じ面だけを我々に見せているのか?
月は不思議なことにいつ見ても同じうさぎの模様が見えます。月の裏側は見せてくれません。そのせいで昔から月の裏側には何かがあるのではないか、という噂がいつもありました。月は地球を1周する間に、自らも1回転自転します。公転周期と自転周期が一致しているため表側しか見ることができないのです。地球と太陽の関係はこうではありません。地球が太陽を1周する間に、地球は365回自転します。そのため地球は太陽にいろいろな面を見せています。太陽に対しての日本の向きも変わるので、1日のうちに昼だったり夜になったりするわけです。
考えてみれば、月が地球の周りを一周する公転周期と、月の自転周期が同じというのは不思議な現象です。どうしてこんな状況になっているのでしょう。月は完全な球体ではなく、地球の引力により少し楕円形をしています。そして楕円の長い方向が地球に向いている状態が一番安定しています。その昔は月はもっと高速に自転していて、地球から月の裏側を見ることができました。しかし楕円の向きがいちばん安定している方向より少しずれていると、バランスが崩れて安定させる方向に少しだけ力がかかります。これがブレーキとなって長い年月の間に、一番安定した今の形になったのです。最初は違う動きだったけれど、少しの軌道修正の積み重ねにより最終形に到達したわけです。
私の仕事人生にも同じことが起きたように感じました。ぼんやりとなりたい自分があって、その気持ちが自分でも気がつかない小さな力と働いて、関係ないと思っていた毎日の仕事に自分でも気が付かない影響を与え、気がついたら今のように収斂しつつあるというわけです。
だから、「今の仕事はやりたことではないかも」とキャリアに悩んでいる人には「大きな想いを持ちつつ、毎日の仕事を必死に考えてやっていけば、いつかやりたいことに収斂していくと思う」と話しています。ちと力強さがないですね。私もまだ「収斂しつつある」途中の段階なんです。でもきっとそんなメカニズムが働くのだろう、という確信じみたものはあります。少しずつ軌道修正しながら力をためて「来た!」と思ったら、一気に集中して力を注ぎ込めば良いんだと思います。そして今まさに「来た!」って感じてもいます。

2025年12月8日
アストロライフ合同会社 代表
丹羽雅彦