とうとうというか、ついにというかソニーがテレビ事業を中国大手のTCLとの合弁会社に移管することを発表しました。子供の頃から家電少年だった私には、このニュースには深く感じものがあります。ソニーのテレビはあこがれでした。1ガン3ビームのトリニトロンは、他社のブラウン管がが球面の形状だったのに対して円柱形で目立つフォルムでした。また価格も高い高級品で、家電屋さんで垂涎の眼差しで眺める存在だったのです。
今回の事業移管によって日本で売られるテレビブランドの半分以上は中国資本になりました。でもこれは誰にも見えていた未来でした。テレビのボタンにNetflixやYouTubeのボタンがついた日から決まっていたことなのです。リモコンの一番目立つ位置にこれらサービスのボタンをつけたことは、テレビの主要な価値をこれらサービス提供者に明け渡したと言えます。そうなるとテレビの製造自体は低コスト勝負となり、物量で勝る中国メーカーに勝てません。またソニーという会社は実は創業以来ずっと、家電メーカーではなくエンターテインメントの会社です。一時期、炊飯器を作っていたというトリビアはあるものの、洗濯機、冷蔵庫、掃除機などの生活家電は作らず、一貫してエンターテインメント関連の製品を提供しています。エンターテインメントの視点でも、テレビの主役が機器からサービスに移った今、テレビを製造し続けるのは難しいのだと思います。
ところで私はYouTubeチャンネルを持っています。頑張ってやっています・・・まあ、それは良いのですが、やっていてちょっと冷や汗がでる指標があります。私の動画を見ているデバイスの1位はモバイルやパソコンではなくテレビなのです。実に40%弱の方が私のチャンネルをテレビで見ています。編集が下手くそで動画品質もプロに比べてたいして良くない番組を、家庭の大型テレビで見られているというわけです。でも良く考えたら、我が家のテレビもYouTubeを流している時間が一番長い。そう考えると視聴者は動画品質の良さはそれほど気にしていないことがわかります。ますます、テレビに求められる高性能さは不要になってきたのでしょう。
かつてテレビはアメリカや欧州のメーカーが数多くありました。30数年前に私が初めてアメリカ旅行に行った時にもホテルにはRCAやZenith製のテレビがあり、家電好きの私は興奮した覚えがあります。ブラウン管の画像を高品質にするには高い技術が必要です。たとえば地球の磁気の影響をうけるので、地域によって少しずつチューニングを変える必要があります。しかし液晶テレビが登場し放送もデジタル化されるに従い、誰でも簡単にテレビを作れるようになりました。そして冒頭に述べた「Netflixボタン」の登場です。あのボタンをみたとき「ついに来るべき時が来た」と驚いたのをよく覚えています。テレビがスマホ化されると言われている中、その象徴があのリモコンだっただと思います。
日本の製造業の行方
そうなると「日本の製造業の終焉か?」という声があがってきますが、これは全然違います。現場でお客様と接していると、素材や製造装置などの分野での日本の製造業の強さが際立ちます。圧倒的な性能と品質により、高い利益を叩き出しています。ここでのキーワードは「物理現象」です。テレビやスマホなどの最終製品の製造は組み立てが中心で比較的簡単に製造できます。一方で素材の性能は分子構造や製造プロセスなど物理現象そのものです。また製造装置も複雑な機械制御を求められ、やはり物理現象が性能を支配します。物理現象のデジタル化はまだ困難で、過去の経験・ノウハウが必要とされる領域なのです。
しかしひとつ困ったことがあります。子供達へのインパクトです。工学部をめざす学生にとっての最初のきっかけは、子供のころの「こんな製品を自分で作ってみたい」という気持ちであることが多いと思います。そして高校生を含めて子供が製造業をイメージする場合、自動車や家電などの身の回りの製品です。そんな思いをもって工学部に進学してから、自動車や家電以外にも広がる製造業の世界を知り、素材や製造装置などB2Bの企業で活躍する人材になるのです。大学の工学部に進学する前の入り口は、身の回りの最終製品です。そこに日本の競争力がなくなると、学生も集まらなくなり、製造業の衰退が始まります。
勝負がついた業界ではなく、まだ手がついていない領域で子供にもわかるジャンルは何があるのでしょうか。ヒューマロイドをはじめとするロボットは間違いなく候補でしょう。そのほかにも私が注目しているのは「スマホの次」です。いま電車に乗っていると、みんなスマホをみています。一日中、スマホまみれの私が言うのもなんですが、あんな小さな画面を見ているのはどう考えても不自然です。きっと我々が気がついていないまだ見ぬ次の情報端末があるのだと思います。Google Glassは不評でした。最近、話題になりつつあるメガネ型のAIグラスにも期待がありますが、メガネは個人の顔になるものでデザインの趣味嗜好が多岐に渡ります。iPhoneのように大量生産が向くものではありません。モジュール化してどんなメガネにも実装できるようにする必要がありますね。
また音声を主体にしたデバイスも期待があります。私は結構な冊数の書籍をAudibleというオーディオブックで読み(聞き?)ます。面白いことに、目で読むとは違う感覚があり、難しい本でもわりとすんなり入ってきます。音声デバイスも候補のひとつです。
10数年前にiPadを初めて使った時の「そうきたか!」という驚き。それが何なのかまだ見つかっていません。10年後にまた「そうきたか!」ということになるのでしょうか。自分で見つけたいなと思っています。

2026年1月26日
アストロライフ合同会社 代表
丹羽雅彦