私は子供の頃から「言い訳するな」と言われ続けて育ってきました。とかく言い訳が多いのです。屁理屈を言うな、とも言われることも多くあります。でも本人からすると、言い訳も屁理屈もなくて全て筋が通った話なのです。どうしていけないのか?ずっと分からずにきました。だけど仕事を始めてから気が付いたことがあります。言い訳をすると、それが強い主張になって論点がずれてしまい本当のメッセージが消えてしまうのです。
ずいぶん前に仕事でこんなことがありました。長いこと交渉してきた話がまとまり、あとは契約書にサインをすれば終わりと言う段階。先方は今日中にも契約書に捺印してほしい、とのことでした。しかしタイミング悪く、契約書の承認者である上司は出張中でした。一緒にプロジェクトをやっていた同僚と相談し、メールで承認をもらうことにしました。
「XXの件、交渉がまとまりました。本来はメールではなく対面でご依頼すべきところですが、先方がお急ぎのようなのでメールにてご承認いただきたく思います。先日ご説明した内容で、リスクは最小限と考えます。」
こう送ったら、速攻で同僚がやってきました。
「丹羽ちゃーん。あんなメールを送っちゃだめじゃーん」
彼が言うには、こんなメールを送ると受け取った上司は「本来はメールで承認してはいけないことなのか?」と心配になってしまう。承認してほしいならば「XXの件は交渉がまとまりました。説明した通りリスクは最小限です。メールにて承認ください」と書いて安心してもらうべきじゃないか、というわけです。
目から鱗でした。私の行為は「承認してもらう」という外向きの目的から「メールだけど怒らないでね」という内向きにシフトしてしまったのです。言い訳は、本人が思っているより熱量が伝わります。言い訳をすることで本来の話から、言い訳のほうに注意が移ってしまうのですね。結果として、言い訳で恐れていたことが叶ってしまうという現象が起きてしまいます。
こういうことって、よくあります。プレゼンのアドバイスを求められた時によく話すのも「字が小さくて恐縮ですが・・・」という言い訳を最初にしない、ということです。「字が小さくて恐縮ですが」と言った瞬間に聞き手は「今日はどんな話かな。楽しみだな」という気持ちから「字が小さくて読みにくいな」ということに焦点が移ってしまうのですね。そんなことを言うくらいならば、事前に字を大きくしておけばよいし、そうできないならば字が小さいという代わりに「大切なことなのでしっかり書きました」と言えばいい。
言い訳をはじめとして、私は「叱られたくない」とか「邪魔されたくない」という「恐れを起点として行動」をどうしても取ってしまいがちです。そうすることで、逆に恐れたことが叶ってしまう、という経験を何度もしてきました。これは行動の癖みたいなもので、私が乗り越えないといけないテーマの一つです。
ところで最初にあげたメールはすぐに「承認します」というメールが返ってきて、ことなきを得ました。同僚とも「よかったね」と祝杯をあげにいきました。その時点では、私史上、もっとも炎上したプロジェクトになることを、まだ気がついていませんでした。

2025年12月22日
アストロライフ合同会社 代表
丹羽雅彦