親友と呼べる友人がチリに二人います。2019年に皆既日食を見にチリに行った時に、現地で知り合いました。それ以降、毎日のようにチャットでやりとりをしています。私を天体写真の世界に誘ったのも彼らです。何かするときの突破力はとてつもない人たちで、お金を使うより知恵と工夫(悪だくみとインチキ)で物事を推進していきます。私はいつも彼らのパワーに引っ張られている感じ。「アンデス山脈に日本人向けの観測所をつくろう」というアイデアが出た時も、最初は「本当かよ・・・」って思いましたが、気がついたら数年後にアンデス山脈のアタカマ砂漠に、望遠鏡を24機設置できる施設が現地にできていました。営業する約束で、費用は業者持ちです。

その後、2023年に望遠鏡のメンテナンスのためにチリに行った時、私には忘れられない会話がありました。
メールに翻弄されていた私に
アタカマ砂漠の観測所とチリの首都Santiagoは、500kmくらい離れています。チリの友人が運転する車で高速道路を走っていた時、助手席の私は日本からのメールへの返信をスマホで打っていました。
「何やっているの?」
「仕事のメールだよ」
「いますぐやめないと、ラテンになれないぞ」
私はラテンになりたいと言っていたわけではないのですが、しかしラテンになれないと思うとなんだか悔しく感じます。理由を聞いてみると・・・
「メールをすぐに返信していると、他人の人生を生きることになる」
なんと・・・! そういうことだったのです。送ったメールにすぐに返信してくれるのは「いい人」です。返信してもらった方はとてもありがたい。しかし、それは自分で自分の人生をコントロールできない、ことになる。さらにつづけて
「丹羽さんが真のラテン人、真のチリ人になりたいなら、
1. 24時間以内にメールの返信しない
2. いつもくだらないことを言う
3. 昼から酒を飲む
だ!」
とありがたいアドバイスももらいました。
私はめっちゃ反省しました。相手に良い印象を与えようと、すぐにレスポンスすぐに行動を心がけていましたが、確かにそれでは自分のやるべきことがどんどん後回しになります。まさに「他人の人生を生きる」です。
よくよく考えると即レスには、他にも問題があります。
オーバースペックは高コスト
YouTubeを見ていると、訪日外国人が日本のサービスを絶賛するコメントをたくさん見つけることができます。
「時間が正確」
「何をしても丁寧で優しい」
「サポートが行き届いている」
私も鼻高々になったりしますが、よくよく考えてみると褒められたことばかりではありません。オーバースペックのサービスはコストが高くなります。経済には「限界効用逓減の法則」という理論があります。モノやサービスを消費する量が増えるにつれて、その追加の1個から得られる満足度がだんだん減っていくという法則です。オーバースペックの場合、サービスの量が増えていきますが満足度はそれに比例するほど増えていきません。その視点では、日本はオーバースペック大国、無駄大国ともいえます。それが競争力の源泉のこともありますが、競争力を失う場合もある。メールの例に戻っても、他の仕事をストップさせてそのメールを打つ効果は、コストに見合っていない可能性があります。
例えばチリへの旅行です。チリ行くにはお金と時間がかかります。その時の時間は値千金で、私にとってはその旅行を一生覚えているであろう大切な時間です。いまでも、現地で彼らと会話した内容はよく覚えています。一方で・・・
その時、誰に何の用事でメールを打っていたか、まったく覚えていない
10年後、20年後も思い出せるような貴重な会話時間を捨てて、送った方も送られた方もすぐに忘れてしまうメールを打つとは、恐るべき効率の悪さです。
恐れからの行動
もう一つは、メールを打っていたのがある目的を達成するための行動ではなく、「恐れからの行動」だった可能性があることです。
最近、つくづく感じるのですが、私は「恐れからの行動」が多い人間です。今回の場合の恐れとは、メールの返信が遅いと相手の人に「ダメなやつだ」「優しくない」「信頼できない」と思われてしまわないか、ということ。「恐れからの行動」が危険なのは、目的を見失うから。目的にあわせるとやるべきでないことも、恐れを避けることが目的になってしまった結果、やってしまう。「恐れからの行動」の結果、目的がむしろ遠くなることを何度も経験しています。さらに怖いのは「恐れからの行動」はなかなか自分では気が付かないこと。「恐れからの行動」については、また別の機会に深掘りしたいと思います。
メールをすぐに返信するのが、目的にあっていて合理的であればそうすればよい。しかし闇雲に「よい人」になるために、速攻でメールを返信していると、他人の人生を生きることになる。そしてラテンになれない。
ラテンへの道が険しいです。でも「2. いつもくだらないことを言う」は自信があるので、なんとかなりそうです。

2026年9月30日
アストロライフ合同会社 代表
丹羽雅彦