テクノロジー

専門家は生成AIによってどうなるのか?

デザイン会社の方から興味深い話を伺いました。お客様が自ら生成AIで作ったコンテンツのレビュー依頼の仕事が増えているそうです。製品やサービスなどのロゴやキャラクターデザインをしたものの、いまひとつ評判が良くない。レビューして欲しい、という依頼です。ひとめ見るだけで製品・サービスとの関連性が薄くて、良くないデザインであることはわかるが、なかなか言語化が難しいと話されていました。

そのお話をうかがった場所には複数の業界の専門家がいて「うちも似たような話があるよ」と盛り上がりました。生成AIを使う場合、専門性の視点ではざっくり二つの活用方法がありそうです。

(1) 専門家が作業工数を節約する
(2) 専門家でない人でも専門領域の仕事ができる

今回の話は(2)の専門家ではない人が専門領域の仕事をする時に起きる話です。生成AIの登場によって、これまで専門家にしかできなかったような仕事が専門家ではない人もに解放されました。デザインを専門とする人であれば、息を吸うように、デザインコンセプトの策定やグランドデザインのような、より高次のデザインからスタートしていると思います。それによって見るものに統一したメッセージが伝わる。こういったことはデザインを学ぶ過程で身につけるプロセスなんだ思います。しかしそうでない人は、デザインコンセプトをすっ飛ばしていきなり最終形のデザインから始めてしまうので、ちぐはぐになるのでしょう。

これは他の領域でもおきています。やたら長いけれど目的がはっきりしないので議論が深まらない経営戦略、要件定義ができていないので対象ユーザや用途があいまいなアプリケーション、綺麗だけどメッセージが伝わってこない映像コンテンツなど。みなさんの業界でも「あるある」ではないでしょうか。「これだから素人さんは・・・」とお酒の肴にはもってこいです。とくに生成AIの出すコンテンツはボリュームが多く「全部入り」になることが多いので、AIを活用するには「何をやって何をしない」という整理をする能力が欠かせないように思います。

10数前になりますが将棋の羽生善治が著書で「AIを使うと高速道路に乗っているようなもので、技術の取得は早いが頭打ちになるタイミングも早く来る」ということを書かれていました。まだ現在のようなAIブームが来る前の発言ですが、現在を予見しているようでさすがです。この発言は専門家が70点までは早く到達できる、というような話です。非専門家のように最初から方向を見誤る話とはちょっと違いますが、「基礎となる力をどうつけるか」という点では共通しています。従来であれば、専門性を培うための地道な努力により基礎力をつけることができました。しかし生成AIでいきなりアプトプットを作ることができる現在は、どうしたら基礎力を身につければ良いのでしょうか?

私は二つシナリオがあるように思っています。

シナリオ1 – 新しい基礎力

ソフトウェアプログラマの方とこの件について議論していたら、こんなことを話されました。「いままでもプログラミングはできないけれど、要件定義を適切にして外部業者に発注できる人はいましたよね。それと同じじゃないですか」つまりこれからは、その外部業者が生成AIに変わるだけなので大丈夫というわけです。これが世間で語られる「生成AIを使いこなすスキル」のことかもしれません。自分でデザインできないけれどAIに指示できる人、自分で経営分析したことはないけれど、自分のビジネスに有用な戦略をAIを使って立案できる人。そんな新しい時代のスキルはありそうです。

そういう私も自分の会社の経理や決算、申告を税理士さんや会計士さんの助け無しにいまのところできています。個人の確定申告と違って法人の確定申告はとっても難しいのですが、専用サービスを活用することで日々の仕訳のかなりを自動でできる結果、経理の実務ができなくてもなんとかなっています。これも従来は税理士、会計士の専売であった領域を素人の私ができているといえます。

シナリオ2 – 結局AIが全部やってくれる

もうひとつは、人間が基礎力を持たなくてもAIが基礎力の部分も対応してくれるというシナリオです。グランドデザインができていなくても、適切な問いをAI側から発してくれ、それに答えることで求めるデザインができるようなことです。これはスキルのあるデザイナーがやっていることそのものです。つまり生成AIがより高度化して専門家の仕事の範囲を広げるわけです。リモート会議をしている相手が専門家から、いつのまにか生成AIに代わっていたような世界。それはソフトウェア、経営戦略、映像コンテンツ、そんな領域でも起きそうです。

いまはAIに指示できるシナリオ1の新しい基礎力をつける段階ですが、そんなスキルがなくても生成AIからのインタビューに答えていると専門家に任せる仕事ができるようになるシナリオ2も進行しているように感じます。これは容易に想像がつきます。昨年あたりはそんな世界は5年後くらいかなと思っていましたが、もう来年にも起きていそうな勢いです。

じゃあ、そのとき自分は何をするのか?またその問いに戻ります・・・でもその時にあっさり見つかるような、そんなお気軽な予感もあります。

2026年5月4日
アストロライフ合同会社 代表
丹羽雅彦

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