当事者研究

雑談のすすめ 〜 OGM 過度に一般化された記憶とは?

「雑談って大事だよね」と、職場の同僚と盛り上がりました。リモートワークやオンライン会議が日常化してきた中、用件だけをササっと議論してパッと解散する効率的なスタイルの比重が増してきました。でも「タイパ、コスパばっかり言わずに、雑談もしようよ」というおっさんたちの叫びです。

一見、意味のない雑談にもいろいろな効用があります(と信じている)。以前のコラムでは、思考におけるノイズの必要性を話しました。思考力を高めるのに一定のノイズが必要で、ノイズを増やす工夫のひとつに雑談があるわけです。また同僚やお客様との雑談から、その人の好きなものの話を聞くことで、一緒に働く人の考え方を知ることができて仕事がスムーズに進む、という側面もあります。

そういったことに加えて、今回はOGM(過剰一般化記憶)という概念から雑談の効用について話したいと思います。このOGMという概念。ビジネスパーソンの常識感と真逆で直感に反するので、最初は信じてもらえないことが多いのですが、考えれば考えるほど、納得がいきます。

OGM(過剰一般化記憶 – Overgeneral autobiographical memory)とは?

OGMとは自分の過去の経験を語るときに、具体的なエピソードで話ができず、概念的、抽象的な、つまり大雑把な話をしてしまう状態を指します。自己紹介のときに「過去のエピソードを語ってください」と言われたとき、人はだいたい3つのパターンで話をします。

(1) 始まりと終わりが24時間以内の一回性の出来事の話
あの日、あの時におきたような話。たとえば「大学の最初の授業からついていけなかった(実話)」とか「2年生のときにみんなでやったBBQは楽しかった」というエピソードです。特異的自伝的記憶(specific autobiographical memory )と呼びます。

(2) 繰り返して起きた話
一回性の話ではなくて、繰り返して起きたこととして語る話。「〇〇教授の授業はいつもわからなかった」「部活の練習はきつかったけど楽しかった」というようなエピソードです。範疇的過剰一般化記憶(overgeneral categorical autobiographical memory)と呼びます。

(3) 長期的な話
数日から数年にわたる長期的なおおざっぱな話。「大学1年は楽しかったけど、2年以降はつまらなかった」というエピソード。拡張的過剰一般化記憶(overgeneral extended autobiographical memory)と呼びます。

このうち、(2)と(3)の話が85%を超えるとOGMの状態であると判定されます。そして驚くことにOGMは、メンタル疾患と高い相関性があるとわかっています。

OGMという概念は、1986年にWilliamsというカウンセラーによって最初に報告されました。彼は、鬱々として言葉が少ない患者でも特に問題行動を起こさないこともあれば、元気で言葉が多い患者が問題行動を起こす場合もあり、どうしたらリスクを察知できるか考えていました。そして「前回の受診以降にあった出来事を具体的に報告できない患者さんが、自己破壊的な行動をするようだ」と発見しました。これは直感に反するために、報告当時は疑問の声が多かったものの、その後の研究によりどうやら正しいとわかってきました。

このOGMという概念を最初に聞いた時、私はドキッとしました。これを読んだ多くの方も同じではないかと思います。私たちはいつも「要するにどういうこと?」と要約して話すことを常に求められています。その要約癖に問題があるというのです。直感に反する概念でもあります。またOGMの存在を知ると、子育てや教育にも影響がありそうです。子供たちはオチのない話を延々と続けます。それに耐えられずついつい「何が言いたいの?」って言ってしまいますが、そうではなくて、話に最後まで付き合ってあげなければいけないのです。

OGMはどんな理由で発生しているのでしょうか?

OGM発生のメカニズム

Conwayという認知心理学者は、長期的な自己記憶をを2階建てのモデルで説明しました。1階はエピソード記憶で「あの日、あのとき」の記憶が生々しく格納されています。2階部分は概念的記憶で、出来事が抽象化され意味付けされています。通常はこの二つがリンクされ統合されています。熊谷晋一郎教授によると、人が何かを思い出す時「大学時代はどうだったっけ?」と自分の意思で思い出す場合(随意的想起)と、「夏草の匂いを嗅いだら、不意に子供時代の蟬取りのことを思い出した」というような、不意に思い出す記憶(不随意的想起)の2種類があります。自分の意思による随意的想起は概念的な2階からエピソード1階に降りる形で意識に上がります。一方で不意に思い出す不随的想起はエピソードの1階から概念的な2階に向かって意識にあがります。

問題は1階と2階のリンクが外れている場合です。随意的想起をしても2階部分の概念的な部分しか思い出せず、具体的なエピソードに降りていけない。この状態がOGMなのです。また不随的想起が起きた時、1階部分のエピソードに意識に上がるが、意味付けされている2階に行けず、リアルな出来事の記憶が意味の付加なしで思い出されます。この状態をフラッシュバックと言います。フラッシュバックとは過去の体験が、いまの現実のように鮮明によみがえる現象を指します。

またリンクが外れている場合、もう一つ問題があります。新しいエピソードによって自己の信念の訂正ができなくなるので、思い込みが激しくなるのです。通常、新しい体験をすると1階のエピソード記憶にたまり、次に概念的な2階部分がアップデートされます。しかし、リンクがはずれていると自分の信念体系と外れた経験をしても、2階部分をアップデートすることができません。また「こういうタイプはだめな人だ」という思い込み(スティグマ)も、反証となる事実が出ても更新されないので、組織における偏見の放置にもつながってしまいます。

こういった状態が自己破壊的行動につながっていくのです。そうすると、ビジネスシーンでよく見られる要約もいけないことなでしょうか?そんなことはないと考えます。ビジネスにおいて要約スキルは依然として重要です。要約スキルとOGMとは無関係です。ただ、具体的例が思い出されず、概念的な状態のみになっているのが問題なのです。

そこで雑談!

OGMを解消するには、もう一度、1階と2階のリンクを貼り直す必要があります。しかし、人は似たような経験を何度も重ねることで意味がわかってくるものです。エピソード記憶は一回きりの記憶なので意味づけをすることが、そもそも困難です。

そこで雑談です。

熊谷先生によればオチのない雑談によって「それって私も似たようなことがあった」という「あるある話」となり、OGMが徐々にほぐれていきます。これが雑談パワーです。

移民の第一世代がOGMにおちいりやすいそうなのですが、それも休み時間にあるある話を共有できないから、とのこと。周りに一人でいる人を見かけたら、ぜひ積極的にかつ無駄に声をかけてみてください。食事のこと、家族のこと、仕事のことなど雑談するなかで、あるある話が見つかると思います。

また上述のように雑談をすることで、2階部分を更新していくと偏見(スティグマ)の解消にもつながります。「あの人はずっと〇〇だと思っていたけど、話を聞いてみたら違っていた」という経験は誰にでもありますよね。そんな経験を積み重ねていくと、働きやすい職場環境ができていきますし、共通の目的も見出していけるのだと思います。

オチのない雑談は大切なんです!(強調)

2026年9月1日
アストロライフ合同会社 代表
丹羽雅彦


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