大学1、2年生と一緒にフィールドワークをしました。今回は小売店舗での調査です。実施に先立ってフィールドワークのポイントの授業のために(記事: 高まるフィールドワークの重要性)私が「一次情報の大切さ」を中心に準備していると、大学のクラスの指導教官から「丹羽さん、n=1の大切さも解説ください」とリクエストがありました。n=1、つまりサンプルの母集団が自分だけの意見のことです。フィールドワークでは個人の気づきが大事です。n=1だからといっておろそかにせず、むしろ違和感を重要視してほしいという話をしました。
学生には一次情報の話よりn=1の話の方がインパクトがあったようです。「自分の意見も重視して良いと聞いて安心した」という発言も見られました。私は「フィールドワークにおいて、自分の意見や感覚が重要なのはもちろんのこと」と思っていました。だけど学生はもしかしたらネットでよくみるセリフ・・・
「それって、あなたの感想ですよね」
に影響を受けて自分の意見を調査として採用できないのかもしれませんね。実際にはこのように言われたら「そうですよ。私の意見です。」と返せば良いだけです。だけど学生には論破されてしまう恐怖があるのかもしれません(私はひろゆき氏がこのセリフを実際に発しているのを見たことがなかったので、YouTubeで確認してみると、彼も「事実と感想は分けてくれ」と言っているだけのようでした)
n=1が大切な理由はいろいろ思い当たりますが、一番の理由は「それがオリジナルの意見であるから」です。
みんなの意見と自分の意見
多くの方が述べていることは大切ですし、そこには常識があり確かに重要です。一方でn=1の意見は、自分だけの意見であり強さが生じます。とくに新しいことを始めようとするとき、その第一歩は自分の考えであった方が良いし、自分の感覚を信じた方が良い。そうすることで失敗しても後悔せず軌道修正することができるのだと思います。
またアンケートなどの意見は最大公約数となり、一番美味しいエッジが欠け落ちる感じがします。また意識的にせよ無意識にせよ、嘘を語られるリスクもあります。アンケートの回答には少し格好をつけてしまったり、あるべき姿をイメージして背伸びするのも理由ですし、常識感によって回答者自身が騙されるということもあります。10数年前にiPhoneが登場したとき、当時の携帯電話の50%近くシェアを持っていたノキアもスマートフォンに進出することにしました。その際に大規模なアンケートしたと聞いたことがあります。その質問のひとつに「物理的なキーボードは必要ですか?」があり、そして大半の人が「欲しい」と答えたそうです。結果としてノキアは物理キーボード付きのスマホをリリースして失敗し、その数年後に携帯電話から撤退してしまいました(そしてその物理キーボード付きマシンのユーザの一人が私であることは内緒です)。
集団の意見はエッジがなく、アンケートは嘘をつく。それがオリジナルのn=1が重要な大きな理由です。
炎上が怖い
それでは「自分の意見を全面に出そう」と言えば良いかというと、ことはそんなに簡単ではありません。いまの20代は小中学生の頃からLINEやインスタがあった世代です。私の学生時代は学校でトップに君臨するのは運動ができる人で、足の遅い私はいまひとつのポジションでした(笑)運動神経はすぐに良くなったり悪くなったりしないので、その身分は一定期間、保証されます。一方でスクールカーストと言われる今の世代はローカルなネットのコミュニティで発言を間違えると炎上し、一気に最下層に転落するリスクがあります。クラスで監視があるので迂闊なことを言えないのだと思います。
「炎上なんて気にするな」と言えるのは炎上をさせたことがない人です。私も10年近く前に仕事で取り上げられた記事が炎上したときに、マジで辛かった思い出があります。あれは凹みますし、かなりきつい。だから、幼少期から級友がローカルなネットコミュニティで炎上させ、地位を失うのを見ていると「自分の意見をはっきり言おう」とは軽々しく言えない気持ちになるのも理解できます。飲み屋での意見と違い、ある程度の公な場での意見表明はハードルが高いのです。
現実に謙虚になる
もうひとつ大切のは、現実を直視すること。言い換えると「現実に謙虚になる」ことも重要な能力と感じます。自分の想いが強くなりすぎて自分で作り上げたストーリーが肥大化し固着していくと、現実を歪曲してみてしまったり、自分に都合のよい事実だけをピックアップしてしまいたくなったりします。そうして失敗したサービスをいくつも見聞きしてきました。私自身がこれまで失敗してきたのは「ちょっとした違和感」を無視して、自分を無理やり説得して邁進したときです。「これで行こう」と決めても冷静に外から見つめる目を養うことができたら、と何度も思ったことがあります。自分を外在化させて、まるで他人事のように物事を見ること。これは私がいま取り組んでいるテーマです。
それでもやっぱりオリジナルなのはn=1。自分の意見です。いつだって新しいことは始めたい。「堂々と反対されそうな意見を言おうではないか!」と自分を鼓舞する私でした。

2026年5月11日
アストロライフ合同会社 代表
丹羽雅彦