生成AIを理由にしたリストラ発表が多くみられます。実行には移さないまでも、人を減らす計画は多くの企業でされているようです。しかし、私は生成AIによって企業から人が減ることはないと思っています。頑張れば減らせるかもしれないけれど、少なくとも簡単ではない。いま生成AIを理由にリストラを発表している企業の多くは、リストラの本当の理由は他にあり、生成AIにリストラの責任を押し付けているようにも感じます。
生成AIによって無くなる仕事は確かにあると思います。それはこれまでも一緒です。歴史的に技術の進歩によって多くの仕事がなくなりました。馬の蹄鉄職人は自動車普及でほとんど見かけなくなりましたし、電話の交換手という仕事も自動交換機の普及でなくなりました。同じように特定の業務を遂行する人が生成AIの普及によりなくなることはあります。しかしそれと企業から人が減るのは別だと思うのです。
どうして人が減らないのか。私の考える理由は次のようなものです。
(1) やりたい仕事はもっとたくさんある
いまの仕事に満足している人はまれです。多くの人は時間に余裕があれば「もっとあれができた」「これもやりたかった」という気持ちを抱えながら仕事をしているのではないでしょうか。私も「完璧な仕事としてやりきった」と思うことは少なく、人員的に余裕がないから、時間の制約があるからと、ある程度の妥協をしながらバランスをとって仕事をしています。もし生成AIによって時間に余裕ができたら、あきらめていた仕事をしたくなると思います。企業として「妥協してここまでにせよ!」と指示をしても、仕事をするのは人間です。結局は人はより良い仕事をやってみたくなるはず。全員がそうでなくても、そんな思いを持つ人は少なくないと思います。そのためなかなか減らない。これが理由の1番めです。
(2) 効率化は競合相手も一緒。競争が激化する
私が就職したときはノートPCはありませんでした。それが登場したときは「移動先でも仕事ができて、すぐに仕事が終わるはず」と思っていました。しかし実際には仕事が忙しくなっただけです。世界中で私だけがノートPCを持っているならば、一人で効率化できて仕事は減ったはず。しかしITの革新は世界中の人に平等でおきます。その結果、競争が激化し、新幹線の中でもノートPCで仕事をするようになっただけです。コロナ以降は新幹線の中からオンライン会議もやるようになりました。同じように生成AIを使った効率化が世界中で起きる結果、競争が激化し、業務量が増えていくように思います。
小説のハリー・ポッターに敵の襲来に関してマグル(魔法を使えない人)と魔法使いでこんなやりとりがありました。
マグル:「そんなバカな。あなた方は魔法使いでしょうが!あなた方は魔法が使えるでしょう!」
魔法使い:「閣下、問題は、相手も魔法を使えることですよ」
(ハリーポッターと謎のプリンス)
(3) しょうもない仕事も増える
これは説明の必要がないかもしれません。生成AIの普及に比例して、いわゆるブルシット・ジョブ、つまり不要で役に立たない無意味な仕事が多発しているように感じます。まわりにいませんか?とてもボリュームが多く、内容が多岐に渡っていて、一見洗練されていて、それなのに中身が薄くて主張がわからないレポートを乱発している人。生成AIのつくった資料をそのまま他人に押し付け、受け手の負担を増やす行為をワークスロップ(Workslop)というそうです。中長期的には落ち着いてくると思いますが、いまの瞬間は他人が使う生成AIによって、やらなくて良い仕事が増えている事実はありそうです。
(4) 全部できるわけではない
冒頭で「無くなる仕事はある」と述べました。生成AIによって自動化がすすむことで無くなる、もしくは大幅に減る仕事はあります。実際、コンピュータープログラマーのコーディングの仕事は大幅に減っています。しかしその人が専門職としてもそれだけをやり続けている人は少なく、誰でも複数の仕事をこなしながら業務を続けています。いまの時代、業務は多岐にわたっているのです。その中には生成AIができない仕事もあるはずです。プログラマーの仕事にしても、要件をまとめたり、多くの開発オプションから一つを選んだりすることはまだ生成AIには難しいと思います。技術が進歩するにしたがい生成AIのカバー範囲が増えても、やはり人間でやる仕事は残るはずです。
私が生成AIで企業から人が減ることはないと考えら理由は、こんなところです。上手に仕事を減らしてスリム化に成功する企業はあるでしょうが、かなりの確信をもって大多数は仕事量は変わらないと思っています。
そもそもいらない仕事だった
最後にもう一つ番外編があります。生成AIでなくなる仕事はそもそもいらない仕事だっただけ、という可能性もあります。例えば大量の市場分析レポート、経営分析レポートなどは、作り手が頑張って作っていても、経営で活かされていないこと枚挙にいとまがありません。生成AIで代替できて良し、となるのは、そもそも不要だったレポートかもしれません。つまり誰が作ろうとも読まれないレポートなので、コストをかけずに生成AIで作って万々歳です。生成AIによって多少品質の悪いレポートが出てきても誰も問題視しないことで、そもそも要らなかったと気が付くという皮肉もおきそうです。レポートに限らず、生成AIによって「薄々いらないかな」と思っていた仕事が、炙り出されることは他にも起きそうです。これはちょっとチャンスで、生成AIを出汁にして、いらない仕事を減らすことができすかもしれません、
私としては生成AIを含むAI全般は、仕事を減らす効率化のためではなく、何か新しいことをするための道具として使いたいなと、常々思っています。それ自体が新しいことをするためのサポートになることもあれば、時間節約できて新しいことをするための時間が生まれることもありそうです。そんなことに新技術は使いたいと思っています。

2026年4月6日
アストロライフ合同会社 代表
丹羽雅彦