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「なんだかよく分からないけれど、前に進める」という能力

世間に遅れること数ヶ月。私もClaude Codeでのプログラミングを始めました。20代の頃はプログラミングに夢中になっていた私にとって、なんだか人生を否定されたような気分になる感じがするほど、Claude Codeの威力は大きいものでした。ちょっとしたなデータ解析ツールをサクッと作ってくれます。そして利用している中でひとつ気がついたことがありました。それはこれからの時代・・・

 「何が起きているかなんだかわからないけれど、とりあえずやり進める」

という能力が必要になるということです。Claudeの中で何が起きているかわかりませんし、生成されたプログラミングコードを一つひとつ検証するのは難しい。いったんよくわからないけれど、前にすすめていくしかないのです。

すでに実践している方には「何を当たり前のことを・・・」と感じるかと思います。でも私を含めてなかなかそれができない人も多いのです。年代による違いも大きいと思います。とくにシニア層には発想の転換が難しい。

壊れるし、やり直しの効かないハードウェア

似た経験を他のところでもしました。私は天体写真のブログの中で、画像処理に関するフォーラムを運営しています(ブログには私が撮影した天体写真がたくさんあります。心癒しにPCの壁紙にお立ち寄りください)多くの質問は「この処理をしたら結果がおかしくなった」というトラブルシューティングです。そんなとき私が「Aというボタンを押してみてください」とお願いしても、なかなか押してもらえないことがあります。

 「Bとは違うのですか?」
 「以前に違うデータでAを押したときはうまくいきませんでした」
 「Aはどんな動きなのですか?」

ほとんどの機能は数秒で実行が終わりますし、失敗したらUndoすればすぐに戻れる。しかし何かを実行してもらう前に、こんな質問のやりとりを何回かやる必要があるのです。最初は「どうしてすぐにやってくれないのかな?」と思いましたが、たぶんこういうことだろうと気づいたことがありました。「ハードウェアで育った世代だから」です。

機械を始めとしてハードウェアは、壊したら直すのに費用や時間がかかります。また壊れなくても何かを試すには材料費などの費用や実行のための労力がかかります。だから何かを実行する前に、そのメカニズムを理解して納得しないと前に進めないのではないでしょうか。

私は仕事を始めてすぐにインターネット革命がやってきたので、ハードとソフトの中間世代です。しかし、新人のころに動いているワークステーションにマウスを繋いだことで、高価なワークステーションを壊した経験があります(昔のワークステーションやPCは、起動中にマウスを抜き差しするだけで壊れるのです)だから、やっぱり慎重になります。また「ものごとの全体像をつかんでから仕事をせよ」と先輩から叩き込まれているので、無限にみえる能力をもっていて全体像をつかめないAIを使い始めるのに、まず調べごとからスタートしてしまい、一歩出遅れている感じがしています。

もう一つ、困ったことがあります。

いまの道具は、自分の能力の拡張ではない

かなり前になにかで読んだ話です。航空機メーカーのエアバスが自動化の進んだ航空機を開発したとき、パイロットから「使い続けても手に馴染む感じがしない」とクレームがあったそうです。操縦桿はハンドル式からゲームコントローラーのようなサイドスティックになりました。設計思想として従来の航空機の自動化機能は「人間の操縦能力を補佐」し人間の能力を拡張しているのに対して、エアバスの思想は人間よりも機械の自動化の方が安全だから「機械を主にして人間が補佐する」という違いがあるようにも思いました。

これはルンバなどの自動掃除機も一緒ですね。従来の掃除機は、ほうきに自動ごみ吸い込み装置がつくようなもので人間の掃除機能の拡張です。しかしルンバを使っている人に話を聞くと「ルンバ様の掃除の邪魔をしないように、人間が物をどかす」ということが起きています。やっぱり道具が人の能力拡張ではありません。

Claudeのプログラミングも同じことを感じました。自分のプログラミング能力を拡大させるというより、Claudeが仕事をしやすいように環境を整備しています。なかなかの発想の転換です。

では、昔ながらの道具の使い方に慣れた世代はどうしたらよいか?思いつくことを考えてみました。

処方箋は?

いま考えているのは次の3つです。おもにAIの活用をイメージしていますが、他のテクノロジーも一緒だと思います。

(1) 全部使おうとしない
(2) このままうまくいくのか、常に気にする
(3) より大きなことを意識する

(1) 全部使おうとしない

昔は少ない情報、足りない性能を使い倒すことがテクノロジーを活用する成功要素でした。640Kb(メガじゃなくて、キロ)のメモリ空間の中に、いかに多くのプログラムを詰め込むか、なんて技術を懐かしく思うひともいるかもしれません。しかしテクノロジーが日々進化をつづけ、あっというまに膨大な体系になり、リソースも無限に近く使える現在では、全体の1%の機能しか使わなくてもうまくいきますし、全部を知って使い切るのは不可能。

どうしても全部を知って、全部を使いたくなるのですが、それをグッとこらえて自分にとって必要なものだけを使う、という「我慢」が求められます。

(2)このままうまくいくのか、常に気にする

自動といっても、完全に任せ切ることのできない不完全さがいまの道具です。何が中で起きているかわからなくても、結果としてうまくいっているか、このまま進めると変な方向に走らないか、常に監視する必要はありそうです。しかし監視もやりすぎると、前回書いたAI Brain Fryの問題も起きます。監視しているようで使われている、そんな事態は避けたいですね。キリキリと確認するのではなくて、失敗したら気楽にやり直す、くらいが良さそうです。また直感の力もフルに動員するのが大切と思います。

(3) より大きなことを意識する

これが私自身が一番難しいことと思っているのですが、目の前で起きていることに満足せず、より大きな枠組みを意識することがとても大切に思います。少し視点を対象から遠ざけて見たり、上から見たり、いまの思考の枠を外れたところに良いことがありそう。

これには私には苦い思い出があります。インターネットが普及し始めた1990年後半のころ、工作機器メーカーのお客様から「インターネットを使って何かビジネスできないかな?」と聞かれました。当時のインターネットは、広告ビジネスとEコマースが中心だったので「工作機器メーカにはあまり関係ないかも・・・」と思ってしまいました。いま考えると冷や汗です。インターネットは、工作機器メーカのお客様とのコラボには欠かせませんし、ソフトウェアの更新にも使われる。ちょっと既存の枠を広げて考えることができなかったんです。

生成AIだって仕組みはわかっていない

今回のコラムでは「何が起きているかよくわからないけれど、とりあえずやりすすめる」という現在に求められている力について書いてみました。でも、考えてみればいまの生成AIも動作原理が解明されていないのです。ニューラルネットワークという1980年代から使われていた技術が、現代になってディープラーニングと大量の学習データとアテンションという考え方にであったことで、いきなり人間のような受け答えができるようになりました。しかし、なぜうまくいったのか、を完全に説明できないそうです。実験的にやったらうまくいってしまった、というのが現在地点です。動作途中に状態を把握する仕組みをいれたら、とも思いますが、研究者に言わせると「脳波を測っても人間の知性がなぜあるのか分からないのと一緒」だそうで、生成AIの動作原理の研究はまだ未完です。

「しのごの言わずにやってみる」ということは私は得意と思っていましたが、それでも時代が求めるレベルには達せず、結構「しのごの言っている」ことにあらためて気がつきました。若い人から「これいいですよ」と言われたら、何も考えずにまずはやってみようと思います。

2026年6月1日
アストロライフ合同会社 代表
丹羽雅彦

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