思考とノイズ

イヤホンを買い替えてノイズキャンセリング機能のないものにしました。軽いノイズ軽減機能はあるけれど、無音近くにはできないタイプです。私は20年以上にわたってノイズキャンセリング機能のついたヘッドホンやイヤホンを使ってきました。壊れるたびに最新機種に替えてきたのですが、最近なんとなく「ノイズキャンセリングをしているときの違和感」を感じたのです。

そんな話を友人にしていると「ノイズキャンセリングによる健康被害という話を聞いたことがある」と教えてくれました。早速検索してみるとBBCが報じていました。ノイズキャンセリングは聴覚の保護には良いけれど、脳に影響を与えてしまい、意味のある言葉を理解する能力が落ちる可能性を論じています。APDという症状と関連し、無音状態に慣れた脳が雑音から言葉を聞き分ける力を失うのかもしれないとのこと。

この話を聞いた時、私は音ではなくて他のことが気になり始めました。それは、

 「思考とノイズも同じ関係ではないか?」

ということ。ここでのノイズとは音ではなくて、一見不要にみえるムダ情報のことです。

思考するときは、いくつかの情報の中から意味を見出して新たな概念を理解したり、創造したりすることも多いと思います。そのときノイズと自分の手持ちの情報がくっついたり、ノイズ同士が反応したりすることで、思考がすすんでいく気がするのです。だから目的にストレートな情報だけを得ていると思考能力が落ちるのではないか?つまり

 「思考するときには、適度なノイズ(ムダ情報)が必要」

と思ったのです。とくに最近はAIによって答えが一発で出てきて、周辺の不要な情報は削られます。そのことも問題を大きくしている気がします。

ノイズまみれの環境に身を置く

そう考えてみると、私がこれまで実践していることのいくつかは、もともとそんなつもりで始めたのではないのですが、結果的にノイズを増やすという目的に案外良かったのではないかと思っています。いくつかご紹介しますね。

雑談でノイズを増やす

雑談はノイズの宝庫です。話す相手はこちらの意図を汲んで話すばかりでなく、自分の話したいことを話します。私もそうです。みんな自分の話したいことを話すので、会話があっちに飛んだり、こっちに飛んだりする。そんな中でときどき「ピンとくる話」に出会ったりします。今回のノイズキャンセリングの話も雑談から生まれました。雑談で面白いと思うのは、直接その話が何かの参考になるというより、その情報をトリガーにして、まったく違うことを思いつくことです。会話中に誰かの言葉をきっかけに「あれ、そういえばこんなことあるな」と関係のない話を思いつく感じ。私がお客様と会話する時に雑談が長いのも、場を温める効果もありますが、雑談から新しい取り組みが生まれたこともあります。これからも私の雑談に付き合ってください!

本を読んでノイズを増やす

自分の探している情報をピンポイントで見つけに行くWeb検索やAIと違い、読書はコスパ、タイパがかなり悪い。書いてあることのほとんどは探している目的とは関係なく、場合によっては欲しい情報がまったく書かれていないこともあります。小説にいたっては、ほぼ情報探しと関係ありません。そのノイズの中からやっぱり反応してしまうような情報が見つかったりします。「なぜ働いていると本が読めなくなるのか?」で三宅香帆さんもノイズとしての読書の効用について書かれています(ちなみにこの本は、ノウハウ本のようにみえて実際には日本人の読書の歴史を論じていて、めっちゃ面白いです)読書はノイズにまみれる行為なんだと思います。

そのとき私にとっての問題は、一冊の本を長時間読み続ける力が劣ってきていること。本を読んでいると読むのに疲れてちょっと休憩したくなるものですが、その本を読み続ける時間がどんどん短くなってきているように感じています。他に気が移ってしまう。その対策として、最近では電子書籍をやめて紙の本を読むようになりました。紙の本の方が割り込みが少なくて、読書に集中できる気がします。

スマホをカバンに入れてノイズを増やす

これは私が歩きスマホを防止するために始めた行為です。どうしても歩いているときに乗り換え案内やスケジュール確認など、スマホを触りたくなってしまうので、リュックにスマホを入れることにしました。気軽にスマホにさわれないようにするためです。すると予想外の効果がありました。一次情報がたくさん飛び込んでくるようになったのです。

例えば地下鉄に乗っているときに「ここで他の地下鉄と交差しているのか。こっちの線路が上側で、あっちの線路が下側だな」など、いろいろ観察するようになりました。それに意味があるのか?私はとても意味があると思っています。AIを使うようになってからつくづく感じるのですが、AIに活動領域が侵食されていくわれわれ人間にとって、残された領域は一次情報のように思います。AIによる情報は機械学習された高次情報なので、世の中から一次情報を見つけて意味を見出す行為は、まだ人間に残された数少ないラストリゾートの一つなのでしょう。

ノイズに乾杯

新しい発想は、まったく関係ない情報にちょっとした気づきを与えたり、視点を加えたりすることで起きることが多い。だから、一見関係ないムダ情報であるノイズに身を置くのはとても大切だと思います。私の敬愛する佐野元春も「この街のノイズに乾杯!」と歌っています。優れたクリエイターはノイズの重要性に早くから気がついているのかもしれません。

ところで、このコラムを初めて、今回で一周年を迎えました。ものごとを続けることができない私ですが、このコラムは、毎週月曜発信を続けることができました。たまに「読みましたよ」と声をかけてくださる方もいらっしゃり、とても励みになっています。これからもお付き合いのほど、よろしくお願いします。

2026年6月29日
アストロライフ合同会社 代表
丹羽雅彦

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