テクノロジー

Claude最新版の全面停止とホルムズ海峡の封鎖

Claudeの最新版であるFable 5が、米政府の指示により使用停止となりました。一般公開されてから3日で起きたことです。AIによるサイバーセキュリティのリスクは以前から懸念されていましたし、今回のClaude Fable 5およびMythos 5は、Anthropicもセキュリティの懸念から強力な保護機能を発表していました。しかし「保護機能を回避するJailbreak(脱獄)手法を把握した」との理由により、米政府が国家安全保障上の観点から、米国内外を問わず外国籍の人のアクセスを禁止する輸出管理指令を出したのです。米国籍の人だけにアクセス権を渡すのは事実上不可能なため、AnthropicはClaude Fable 5を全面停止しました(2026年6月15日時点)

開発の現場サイドでは、高機能を使い倒すことも少ないため、そこまで大きな影響は出ていない模様です。だけど、私はこのニュースを聞いて「米政府の鶴の一声で、サービス停止ができるのか」と驚く気持ちと「ついにきたか」と薄々感じていた懸念が顕在化した気持ちが交錯しています。輸出管理指令を使えば、議会の承認を得ることもなく、世界に展開しているサービスでも即座に停止できることを米国は見せつけました。すぐにどうこうということではないかもしれないけれど、時代の流れは最近は、とみに早い。これは何かの始まりでは、という思いがあります。

今回の事象を「ソフトウエアへの付加価値シフト」と「グローバルカンパニー」の2点から考えてみました。

ハードからソフトに付加価値がシフトしたが・・・

2000年代に入って製造業を中心に金融、サービスなどあらゆるところで、付加価値の源泉がこれまでのハードウェアからソフトウェアにシフトしました。その典型的な例がスマホです。単なる「板」でしかないスマホがソフトウェアのパワーによって、従来の携帯音楽プレイヤー、携帯電話、コンパクトカメラ、ゲームなどの領域を席巻していきました。この20年近くはソフトウェアの力をまじまじと見せられてきました。これは自動車業界でも起きていて、各社はソフトウェア人材の確保に躍起になっています。

ここでClaudeの登場です。もともと高品質なコードを生成できるAIの登場によって「システム開発のテストに使えそう」と言われていましたが、Claudeの登場によって一気にソフト開発に活用されるようになりました。いまや多くのソフトウェアのプログラムは、AnthropicのClaudeやOpenAIのCodexなどコーディングエージェントと呼ばれるAIツールで生成されています。この調子ですとすぐにも「コーディングをしたことのない」ソフトエンジニアが主流になると思われます。ソフトエンジニアはより重要な要件や仕様に付加価値を求めています。それ自体もちろん間違っていませんが、製造装置であるコーディングエージェントがないと、要件があってもソフトを作ることができなくなります。

そうするとどうなるのか?世の中の付加価値の源泉であるソフトウェアはAnthropicやOpenAIのような一部の企業のAIが生み出す・・・つまり付加価値のチェーンの最上流を少数の企業におさえられることになります。従来の産業でいうと石油のようなものですが、石油の場合はそれでも産油国もメーカーもそれなりに多く、代替手段がありました。しかしソフトウェアを生み出すAIは現時点で、少数に絞られます。

グローバルではない

またさらにはこれら企業は米国の企業であって、グローバルカンパニーとは言えない点があります。従来のグローバルカンパニーの多くは「顧客基盤」と「事業オペレーション」の両方がグローバルでした。私はグローバルカンパニーであるサービス企業で26年働いてきました。そこでは世界数十ヵ国の顧客を対象にし、従業員も世界中にいました。米国が発祥の企業でしたが、米国人の割合はすでに少なく、国の比率では当時はインドの従業員が一番多かったように思います。そうなると米国の意向や思惑はそれほど強く働かず、働いたとしても他国からの反応により抑制が効いていました。

このように、これまでのグローバルカンパニーは「顧客基盤」と「事業オペレーション」の両方が世界中に広がっている業態が多いように思います。製造業の場合は工場や販売網が世界中にあります。顧客に近い地産地消がサプライチェーン上有利だからです。サービス業ならば地域サービスを強化するためにサービス要員が世界中に配置されていました。

一方でAnthropicやOpenAIの場合は顧客はグローバルに広がりますが、事業は米国のサンフランシスコに集中する米国企業です。GoogleやMicrosoftなどの従来のソフトウェア開発会社はインドなどオフショア開発を促進したり、各国でのローカライズ(現地化)をするために、最初は米国でスタートしても開発網、販売・サービス網は世界に広がっていきました。しかし生成AIを開発する会社は、開発やサポートをAIに代替することを旨としているので、コストをかけて世界中に広がるとは思えず、事業基盤は今後も米国にとどめると思います。集中した方が効率も良く、イノベーションの着火もしやすいからです。

そこに今回の米政府の対応です。資本主義・民主主義の国でも本気になればかなりのことができる。ある日、蛇口を絞って、一気に米国の政治・経済を有利な状況にすることも可能であると、今回の件で示したように思います。

米国とイランの戦闘では、世界からナフサが不足し混乱が広がっていきました。石油を精製して得られるナフサは多くの化成品の原料です。つまり物のサプライチェーンの最上流に位置するため経済の混乱が始まりました。現在の経済の付加価値の中心にあるソフトウェアの場合、最上流は少数の米国企業が生み出しているAIです。ホルムズ海峡の封鎖はイランと米国の軍隊を動員して実施しましたが、米国企業が作ったコーディングエージェントのようなAIのサービスは、米政府の指示一発で止めることができたのです。極論すると、米国のみが高品質なソフトウェアを作るような世界を作ることもできるかもしれません。今の時点では妄想に過ぎませんが、これまでは妄想と流してきたようなこともトランプ政権がハードルを一気に下げました。

テクノロジーと政治の変化により、資本主義と民主主義が変わる潮目がきた感覚があります。この件はこれからもっと考えたいと思います。

2026年6月15日
アストロライフ合同会社 代表
丹羽雅彦

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